はさみうちの原理

問題

次の極限を求めよ。\[
\dlim{n \to \infty}\dfrac{1}{n}\sin \dfrac{2}{3}n\pi
\]

数列とか,極限だけでも難しいのに,三角関数まで登場しちゃった。

$\sin \dfrac{2}{3}n \pi$ は有限の値しか取らないし, $\dfrac{1}{n}$ は $0$ に収束するから,$0 \times (有限値)$ で $0$ に収束。どうですか?

直感的にはそうなんだが,高校でも極限についての次の性質を学ぶので,これを用いて,もっときちんとした解答を書くようにしよう。

極限の性質(大小関係について)

$\dlim{n \to \infty}a_n = \alpha$, $\dlim{n \to \infty}b_n = \beta$ のとき,

  • すべての自然数 $n$ について $a_n \leqq b_n$ が成り立つならば,$\alpha \leqq \beta$
  • すべての自然数 $n$ について $a_n \leqq c_n \leqq b_n$ ,かつ $\alpha = \beta$ ならば $\dlim{n \to \infty}c_n = \alpha$

1つ目の性質は,$a_n$ より $b_n$ が常に大きいので,極限値を比較しても $\alpha$ より $\beta$ の方が大きいことを意味する。2つ目の性質は,$c_n$ が常に $a_n$ と $b_n$ の間にはさまれていて,しかもその $a_n$ と $b_n$ が同じ値に収束するならば,$c_n$ も同じ値に収束するというもの。2つ目の性質ははさみうちの原理といわれることが多い。次の図を見るとイメージしやすいかな。

図:「はさみうちの原理」のイメージ

青が数列 $\{a_n\}$,緑が数列 $\{b_n\}$,橙が数列 $\{c_n\}$ の推移を表す曲線だと思ってくれ。$x$ 座標が $n$ のところの $y$ 座標がそれぞれ $a_n$, $b_n$, $c_n$ になるという感じだ。図の中には例として $a_1$, $b_1$, $c_1$ を書き込んでいる。$x$ 座標が自然数になるところに黒の点線(縦の線)が引いているんだが,どこを見ても $a_n$(青い点) と $b_n$(緑の点) の間に $c_n$(橙の点)があり,$\{a_n\}$(青い曲線)と$\{b_n\}$(緑の曲線)はこの図ではどちらも $x$ 軸に近づいていく。つまり $0$ に収束している。すると,$\{c_n\}$ (橙の曲線)も $0$ に収束するしかないだろ?

$\{c_n\}$ が $\{a_n\}$ と $\{b_n\}$ にはさまれて,追い込まれていく感じですね。

そう。だから「はさみうち」と呼ばれるんだ。さて,問題の解答だ。

解答

すべての自然数 $n$ について,\[
-1 \leqq \sin \dfrac{2}{3}n\pi \leqq 1
\]が成り立つ。$n > 0$ であるから,各辺を $n$ で割って\[
-\dfrac{1}{n} \leqq \dfrac{1}{n}\sin \dfrac{2}{3}n \pi \leqq \dfrac{1}{n}
\]ここで,\[
\dlim{n \to \infty}\left(-\dfrac{1}{n}\right)=\dlim{n \to \infty}\dfrac{1}{n}=0
\]であるから,はさみうちの原理により\[
\dlim{n \to \infty}\dfrac{1}{n}\sin \dfrac{2}{3}n \pi = 0 \cdots (答)
\]

とても深いトコ

ところで,なんで「定理」じゃなくて「原理」なんですか?

大学レベルだと極限を厳密に定義するので,この性質は厳密に証明できる。だから定理といってもいいんだけど,高校では厳密な証明が与えられないので,直感的に明らかに成り立つ事柄ßという扱いで「原理」と呼んでいるんだろうね。ちなみに,英語では squeeze theorem,あるいは sandwich theorem などと呼ばれるようだ。theorem だから「定理」だね。

極限の厳密な定義は次の2つの記事ね。