極限と極限値の違い

問題

次の数列の極限があればそれを答えよ。

  1. $\dfrac{1}{2}, \dfrac{1}{4}, \dfrac{1}{8}, \cdots , \dfrac{1}{2n}, \cdots $
  2. $ 1,3,5, \cdots , 2n-1 , \cdots $
  3. $ -1, -8, -27, \cdots , -n^3, \cdots $
  4. $ 1, -2, 4, \cdots , (-2)^{n-1}, \cdots $
  5. $ 1, -1, 1, \cdots , (-1)^{n-1}, \cdots $

極限? 極限値みたいなもん?

「あればそれを求めよ」って,なんか意味深。

極限値については,次の記事で学んだね。でも,極限という言葉と極限値という言葉は微妙に違う。今回はそれも含めて学んでいこう。

「$n$ を限りなく大きくするとどうなるか」を考えるところは前と同じだ。では(1)から。

これは前と似たような問題ですね。分母だけがどんどん大きくなるから,数列は $0$ に収束。

その通り。では,(2)は?

これは等差数列ですね。初項が $1$ で公差が $2$ ,第$n$項は$2n-1$ です。

で,$n$ を限りなく大きくするとどうなる?

どんどん大きくなる。

どこまで大きくなる?

第$100$項が$199$,第$2000$項は$3999$,第$50000000$項は$99999999$。どこまでも大きくなりそうですね。

そう。限りなく大きくなるんだ。このとき,この数列は「正の無限大に発散する」という。そして,「極限は正の無限大である」ともいう。

「極限値は正の無限大」と言ってはいけないんですか?

この「正の無限大」というのは数値ではないんだ。だから「極限値」というのはおかしい。

細かいなぁ

「ある値に近づく」ともいえないので,この数列は収束しない。収束しないとき,その数列は発散するという。

収束しない数列は,すべて「発散」でいいんですね?

そうです。じゃ,(3)いってみよう。

今度は全部マイナスがついてるぞ。第 $100$ 項は $-1000000$ だ! これはどう言えばいいんだ?

これこそ,「限りなく小さくなる」でいいのかな?

そうだね。ただ,その言い方だと,前回の隆史君のように「$0$ に近づく」というイメージを持ってしまう人もいるので,誤解のないように言うと「ずっと負の数で,絶対値が限りなく大きくなる」かな。

それもちょっとわかりにくいですね。でも,答えはわかりました。「極限は負の無限大」でいいんですよね?

その通り。じゃ,(4)はどうかな?

今度は正になったり負になったりするぞ。

ある値に近づくという感じではないよね。

しかも,正の方向にいくのか,負の方向にいくのか,さっぱり分からん。

今までの数列は,収束しない場合でも,正の無限大とか負の無限大とか,ある一定の方向へ向かっていくといえたけど,今度は,それすらもいえないよね。こう言う場合は「極限なし」だ。「振動する」とも言う。

正と負を行ったり来たりするから「振動」ですね。

正と負を行ったり来たりするから「振動」とは限らない。例えば前出てきた $-\dfrac{1}{2}, \dfrac{1}{4}, -\dfrac{1}{8}, \cdots $は正と負を行ったり来たりするけど,答えは「$0$ に収束」だったよね。

最後の(5)は $1$ と $-1$ のどちらかに向かっているともいえないので,同じように「振動」でいいですか?

そうだね。では答えをまとめよう。

解答

(1)$0$ (2)正の無限大 (3)負の無限大 (4)極限なし (5)極限なし

最後に,極限と極限値について表にまとめておこう。これをみて,「極限」と「極限値」の2つの言葉の使い分けに注意だ。

極限が正の無限大や負の無限大の場合は,次のような記号が定義されている。

極限の記号の定義

数列 $\{a_n\}$ が正の無限大に発散するとき,\[\dlim{n \to \infty} a_n = \infty\] または \[n \to \infty \text{のとき} a_n \to \infty\]と表す。

数列 $\{a_n\}$ が負の無限大に発散するとき,\[\dlim{n \to \infty} a_n = -\infty\] または \[n \to \infty \text{のとき} a_n \to -\infty\]と表す。

第$n$項収束・発散極限値極限
$\dfrac{1}{2n}$収束$\alpha$$\alpha$
$2n-1$発散なし正の無限大
$-n^3$発散なし負の無限大
$(-2)^{n-1}$発散なしなし(振動)
(表)数列の収束・発散と極限値・極限

極限がない場合はどう書くんですか?

極限がない場合はこのような記号はつかわないのが一般的だ。

$\dlim{n \to \infty}=\text{なし}$ みたいに書いてはいけないんですね。

そうだね。

とても深いトコ

さて,もう気付いているかもしれないが,正の無限大に発散とか負の無限大に発散とか,きちんと定義していないよね。

これも,高校の範囲を越えるんですか?

そうだね。次のようになる。

「正の無限大に発散」の定義

数列 $\{a_n\}$ について,どんな(大きな)正の数 $M$ についても,ある自然数 $N$ が存在して,この $n \geqq N$ を満たすすべての $n$ に対して\[ a_n \geqq M\] が成り立つとき,$\{a_n\}$ は正の無限大に発散するという。

「どんな大きな数 $M$ を用意しても,あるところから先は $M$ より大きな数しか出てこない」って感じですか?

お,いいね。で,数列 $\{-a_n\}$ が正の無限大に発散するとき,数列 $\{a_n\}$ は負の無限大に発散すると定義する。