数列の極限値とは

問題

次の数列の極限値を答えよ。

  1. $ 1, \dfrac{1}{2}, \dfrac{1}{3}, \cdots , \dfrac{1}{n} , \cdots $
  2. $-\dfrac{1}{2}, \dfrac{1}{4}, -\dfrac{1}{8}, \cdots, \left(-\dfrac{1}{2}\right)^n, \cdots$
  3. $ 2, 2, 2, \cdots , 2, \cdots $

いきなり極限値とか難しい言葉が出てきましたね。

極限値についての厳密な定義は,高校で学ぶ内容を超えてしまうんで,まずは直観的に理解してもらいたい。まず(1)の数列について考えよう。

第 $n$ 項は $\dfrac{1}{n}$ ですね。

では,第 $100$ 項は?

$\dfrac{1}{100}$ です

小数で言うと?



$0.01$ です。

じゃあ,第 $10000$ 項は

$ \dfrac{1}{10000}$ だから…… $0.0001$ ね。どんどん小さくなってる。



そう。そして,$n$ が限りなく大きくなると第 $n$ 項はどうなる?

限りなく小さくなる?

限りなく小さくなるんだったら,$-100$ や $-1000$ なんかよりもっと小さくなるという意味になってしまうね。

でた,得意の「負の数攻撃」。

「ほとんど $0$ になる」という言い方はどうですか?

いい感じだね。数学では「$0$ に限りなく近づく」という表現を使うことが多いよ。で,このようなとき,この数列は「 $0$ に収束する」というんだ。「極限値が $0$ である」ともいう。

ということは,(1)の答えは $0$ ですね。

その通り。

よし,次は(2)ね。

これは,等比数列だな。

逃げちゃダメだぞ。

「逃避」じゃありません。

えっと, 第$10$項は $\dfrac{1}{1024}$, 第$11$項は $-\dfrac{1}{2048}$,プラスになったり,マイナスになったりするけど……。

分母が大きくなるから,$0$ に近づいていきそうな…。

それでいいよ。これも $0$ に収束だ。じゃあ,(3)はどうだろう?

何だ,この数列。ずっと $2$ が並んでるぞ。

そうだね。じゃあ,第 $n$ 項は何になる?

ずっと $2$ ということは,第 $n$ 項も $2$ ?

その通り。じゃあ,$n$ を限りなく大きくすると第 $ n $ 項はどうなる?

どうなるも何も,ずっと $2$ のままじゃないんですか?

そう。こういう場合もこの数列は収束するというんだ。ずっと $2$ だから,$2$ に収束する,つまり極限値は $2$ というのが答えだよ。

なんか,さっき聞いた「限りなく近づく」っていうイメージとは違うような……。

そうだね。この辺が高校数学の限界かな。極限値の厳密な定義が理解できれば,この答えは納得がいくんだけどね。それが難しければ,そういうものなのだと覚えてしまうしかないかな……。というわけで,解答だ。

解答

(1) $0$ (2) $0$ (3) $2$

ちなみに次のような記号が定義されている。

極限値の記号の定義

数列 $\{a_n\}$ の極限値が $\alpha$ であるとき\[ \dlim{n \to \infty} a_n = \alpha \]または\[ n \to \infty \text{のとき} a_n \to \alpha\]と表す。

どちらの書き方も,「$n$ を限りなく大きくすると$ a_n$ は $\alpha$ に近づく」と読める。また,$\dlim{}$ は「リミット」と読み(「極限」という意味だね),厳密な表現ではないけど,$n \to \infty$ を「$n$ を無限大に近づける」と読んで,$\dlim{n \to \infty}a_n = \alpha$ は「リミット・$n$ を無限大に近づけたときの・$a_n$ は $\alpha$」のように,前からそのまま読む先生が多いよ。例えば,問題の(1)の結果をこの記号を用いて表すと,$\dlim{n \to \infty}\dfrac{1}{n}=0$ となる。

とても深いトコ

さて,限界を超えてみよう。そもそも,極限値というのは微分や積分を考えるために必要なものなんだ。微分積分学はニュートン(英)とライプニッツ(独)がほぼ同時期に,それぞれ独立に創設したといわれているんだけど,実は,その頃の極限値の概念は,今学んだような直感的なものだったらしい。

それで微分や積分ができてたんなら,それでよかったんじゃないですか?

いや,厳密でないが故に,時々おかしな結論が導かれることもあったようだ。

やっぱり,厳密な定義って必要なんですね。

それを高校生が学ぶべきかどうかは意見の分かれるところだけどね。それどころか,微分積分が必要な大学生でも,数学科ではない人が学ぶべきかどうかは意見が分かれるかもしれない。でも,ここでは思いっきり背伸びしてみよう。

極限値の定義

数列 $\{a_n\}$ において,どんな正の数 $\varepsilon$ に対しても,ある自然数 $N$ が存在して,$n \geqq N$ を満たすすべての $n$ に対して \[ \zettaiti{a_n – \alpha} < \varepsilon\] が成り立つとき, $\{a_n\}$ は $\alpha$ に収束するという。

なんか,難しい文字が……。なんて読むんですか?

$\varepsilon$ は「イプシロン」と読むんだ。ギリシャ文字だよ。他の文字でもいいんだけど,限りなく $0$ に近い数を表す文字としてこの $\varepsilon$ を使う習慣があるんで,今回もこれを使ってみたよ。

読み方は分かったんですが,そもそもこの定義,何がいいたいのかさっぱりわかりません。

だろうね。数学科の大学生も苦労するんだ。さて,問題の(1)で具体的に考えよう。なんでもいいから,$0$ にとても近い数を一つ言ってみて。

じゃあ,$0.001$。

$\dfrac{1}{1000}$ だね。じゃあ,(1)の数列の第 $1000$ 項は?

$\dfrac{1}{1000}$ です!

ここで,第 $1000$ 項より先の項は,$0$ からの距離が $\dfrac{1}{1000}$ より小さいものしか出てこないってわかるかな?

第 $1001$ 項が $\dfrac{1}{1001}$, 第 $1002$ 項が $\dfrac{1}{1002}$ で……確かに。

さっきの $0.001$ をもっと $0$ に近い数にしても,ある項から先は,それよりも $0$ に近い数しか出てこない,そんな項が必ず存在するんだ。

その項というのが第$N$項なんですね。

そう。だから,さっきの定義をちょっと噛み砕いた言い方にすると,「正の数のうちでどんなに $0$ に近い数(これを $\varepsilon$ とする)を用意しても,十分に大きな $N$ を用意すると,数列 $\{a_n\}$ の第 $N$ 項以降には,$\alpha$ からの距離が $\varepsilon$ より小さいような数しか出てこない」というのが $\alpha$ に収束することの定義だ。

そうすると,問題の(3)は,もともと $2$ からの距離が $0$ である数(つまり,$2$ そのもの)しか出てこないから,どんなに $0$ に近い正の数 $\varepsilon$ を用意しても,すべての項が $2$ からの距離が $\varepsilon$ より小さいので $2$ に収束するという理解でいいですか?

そういうこと。