数列の極限(整式・分数式)
問題
次の極限を求めよ。
- $\dlim{n \to \infty}(n^2-n)$
- $\dlim{n \to \infty}(5n-n^3)$
- $\dlim{n \to \infty}\dfrac{5n+2}{3n-1}$
- $ \dlim{n \to \infty}\dfrac{n^2}{2n+1}$
今回は,一般項が整式や分数式で表される数列の極限について考えよう。実は,これまでも暗黙の了解で使ってきたけど,次の性質は断りなく使ってもいいよ。きちんと証明するには極限の厳密な定義が必要だけど,直感的には明らかだね。
数列 $\{n^k\}$ の極限
$k \geqq 1$ のとき,$\dlim{n \to \infty}n^k = \infty$
分母の絶対値が正の無限大に発散する数列の極限
$\dlim{n \to \infty}\zettaiti{a_n} = \infty$ のとき, $\dlim{n \to \infty} \dfrac{1}{a_n} = 0$
2つ目のは,$\{a_n\}$ が振動して極限を持たない場合でも,$\dlim{n \to \infty}\zettaiti{a_n}=\infty$ であれば使える。例えば $\left\{\dfrac{1}{(-2)^n}\right\}$ などがそうだ。
分母は\[
-2, 4, -8, 16, \cdots
\]で振動するけど,実際は\[
-\dfrac{1}{2},\dfrac{1}{4},-\dfrac{1}{8},\dfrac{1}{16},\cdots
\]で,確かに $0$ に近づいていきそうですね。
次は,正の無限大に発散する数列についての性質だ。
極限の性質(発散する2つの数列)
$\dlim{n \to \infty}a_n = \infty$, $\dlim{n \to \infty}b_n = \infty$ のとき,
- $\dlim{n \to \infty}(a_n + b_n) = \infty$
- $\dlim{n \to \infty}a_n b_n = \infty$
あくまで形式的な書き方だが,$\infty + \infty = \infty$,$\infty \times \infty = \infty$ と考えると理解しやすい。「限りなく大きいものと限りなく大きいものを足すと,限りなく大きい」のように,これらはほぼ明らかといっていいだろう。次も正の無限大に発散する数列に関する性質だが…。
極限の性質(発散と収束が混在する場合)
$\dlim{n \to \infty}a_n = \infty$, $\dlim{n \to \infty}b_n = \beta$ とする。
- $\dlim{n \to \infty}(a_n + b_n) = \infty$
- $\dlim{n \to \infty}(a_n – b_n) = \infty$
$\beta > 0 $ のとき
- $\dlim{n \to \infty} a_n b_n = \infty$
$\beta < 0 $ のとき
- $ \dlim{n \to \infty} a_n b_n = -\infty$
さっきと同じように形式的だが,$\infty + (\text{有限値}) = \infty$, $\infty – (\text{有限値})= \infty$, $\infty \times (正の有限値)= \infty$, $\infty \times (負の有限値) = -\infty$ と書くとわかりやすいかな。ただ,これらは正確な表現ではないので,正式な場面(例えばテストの解答)でこのような式を書いてはいけないよ。
結局,有限な値は無限大に太刀打ちできないってところですか?
そんなところかな。でも,負の数の掛け算は符号を変えるから気をつけて。
よし,じゃあ問題を解こう。(1)は\[ \dlim{n \to \infty}(n^2-n)=\dlim{n \to \infty}n^2 – \dlim{n \to \infty}n = \infty – \infty\]だから,答は $0$ だ!
本当にそうかな? この数列がどんな数列なのか,初項からいくつか並べてみようか。
えっと……。第 $n$ 項が $n^2-n$ なんだから,この数列は初項は $1^2-1$ で $0$ だけど,第2項は $2^2-2$ で $2$ だから,最初から並べていくと\[
0, 3, 6, 12, \cdots
\]あれ? どんどん増えていくような……。
そうだね。最初の隆史君の答だけど,まず,念のために言っておくけど,$ \infty – \infty$ という式は解答に書いちゃいけないよ。形式的に $ \infty – \infty$ の形と考えたのはいいんだけど,この形は上の性質の中には登場しないよね。
公式は,条件をよく考えて使わなければいけませんね。
その通り。
でも,(1)と(2)は$\infty – \infty$ のような形だし,(3)と(4)は $\dfrac{\infty}{\infty}$ のような形。どちらも,さっき出てきた性質が使えないんですけど。
だから,それが使えるように式を変形するんだ。例えば, (1)は\[
\dlim{n \to \infty}(n^2-n) = \dlim{n \to \infty}n^2\left(1-\dfrac{1}{n}\right)\]と変形するとどうだろう。
えっと,$\dlim{n \to \infty}n^2 = \infty$ で,$\dlim{n \to \infty}\left(1-\dfrac{1}{n}\right)=1$ だから,$\infty \times 1$ の形なので $\infty$ !
その通り!
じゃあ(2)は\[
\dlim{n \to \infty}(5n-n^3) = \dlim{n \to \infty}n^3\left(\dfrac{5}{n^2}-1\right)\]だから,$\infty\times(-1)$ の形で $-\infty$ !
次はどうかな?
$n$ でくくって,
$\dlim{n \to \infty}\dfrac{n\left(5+\dfrac{2}{n}\right)}{n\left(3-\dfrac{1}{n}\right)}$
約分できる! $ \dlim{n \to \infty}\dfrac{5 + \dfrac{2}{n}}{3-\dfrac{1}{n}}$ になるから,分母も分子も収束して,答は $\dfrac{5}{3}$ !
そうだね。最初の式の分母と分子をそれぞれ $n$ で割ったと考えてもいいね。分母が0以外の有限な値に収束するように変形するのがポイントだ。
(4)も分母と分子を $n$ で割って,$ \dlim{n \to \infty}\dfrac{n}{2+\dfrac{1}{n}}$ だから, $\dfrac{\infty}{2}$ の形?
$\infty \times \dfrac{1}{2}$ の形と考えれば?
$\dfrac{1}{2}$ は正の有限値だから,$\infty$ !
その通り。ではまとめよう。
解答
- $\dlim{n \to \infty}(n^2-n) = \dlim{n \to \infty}n^2\left(1-\dfrac{1}{n}\right)=\infty \cdots (答)$
- $\dlim{n \to \infty}(5n-n^3) = \dlim{n \to \infty}n^3\left(\dfrac{5}{n^2}-1\right)=-\infty \cdots (答)$
- $\dlim{n \to \infty}\dfrac{5n+2}{3n-1}=\dlim{n \to \infty}\dfrac{5 + \dfrac{2}{n}}{3-\dfrac{1}{n}}=\dfrac{5}{3} \cdots (答)$
- $\dlim{n \to \infty}\dfrac{n^2}{2n+1}=\dlim{n \to \infty}\dfrac{n}{2+\dfrac{1}{n}}=\infty \cdots (答)$
さて,この問題で出てきたのは $\infty – \infty$ の形と $\dfrac{\infty}{\infty}$ の形だが,収束したり,正の無限大に発散したり,負の無限大に発散したりと,様々な結果になったね。
$\infty – \infty = 0$ とか $\dfrac{\infty}{\infty}=1$ とかじゃないんですね。
もちろん,そうなる場合もあるんだけど,そうじゃない場合も多い。この形からは極限がどうなるかが分からないから,このような形は不定形(indeterminate form)といわれている。
答が定まらないから不定形ですね。他にも不定形ってあるんですか?
$\dfrac{0}{0}$,$\infty \times 0$,$1^\infty$,$\infty^0$,$0^0$ などの形も不定形だよ。