極限の計算(基本的な考え方)
問題
$\dlim{n \to \infty}a_n = 2$, $\dlim{n \to \infty}b_n=3$ のとき,次の極限を求めよ。
- $\dlim{n \to \infty}(2a_n + 3b_n)$
- $\dlim{n \to \infty}(3 a_n – b_n)$
- $\dlim{n \to \infty}a_nb_n$
- $\dlim{n \to \infty}\dfrac{a_n+1}{b_n-2}$
この問題に入る前に極限の基本的な性質をまとめておこう。
極限の基本性質
$\dlim{n \to \infty}a_n = \alpha$ , $\dlim{n \to \infty}b_n=\beta$ とし,$k$ を定数とするとき,次が成り立つ
- $\dlim{n \to \infty} k a_n = k \alpha $
- $\dlim{n \to \infty}(a_n + b_n) = \alpha + \beta$
- $\dlim{n \to \infty}a_n b_n = \alpha \beta$
さらに,$\beta \neq 0$ のとき
- $\dlim{n \to \infty}\dfrac{a_n}{b_n} = \dfrac{\alpha}{\beta}$
どれも当たり前に見えるけと……。
そう,直観的には正しく見える。でも,極限値を厳密に定義していないと,きちんと証明することはできない。
つまり,高校レベルでは厳密に証明はできないということですね。
その通り。だから,高校生は「直感的に正しいよね」という理解でいいと思う。ただ,気をつけて欲しいのは,いつものように前提となる条件の部分だ。2つの数列 $\{a_n\}$ と $\{b_n\}$ 共に収束するときに成り立つ性質なんだ。
$\alpha$ や $\beta$ が $\infty$ とかいうことはないんですか?
それはないと考えていいよ。逆に,発散するかもしれない数列 $\{a_n\}$ について,「$\dlim{n \to \infty}a_n = \alpha$ とする」といったことはやめておこう。
$\dlim{n \to \infty}(a_n-b_n)=\alpha-\beta$ は成り立たないんですか?
それは,次のように示すことができる。まず,最初の2つの性質から,$p$,$q$ を定数として\[
\dlim{n \to \infty}(p a_n + q b_n)=p \alpha + q \beta
\]であることが導かれる。こういう性質を満たすものとしては,数列の和の記号 $\sum$ があったね。
\[
\sum_{k=1}^{n}(pa_k + q b_k)= p \sum_{k=1}^{n}a_k + q\sum_{k=1}^{n}b_k
\]ですね。確か線形性とかなんとか……。
よく覚えていたね。 $\dlim{n \to \infty}(p a_n + q b_n)=p \alpha + q \beta$ において,$p=1$, $q=-1$ とすれば \[ \dlim{n \to \infty}(a_n – b_n) = \alpha – \beta \] であることも分かる。さて,ここまでわかれば,問題の解答はすぐにできるんじゃないかな。
(1)は\[
\dlim{n \to \infty}(2 a_n + 3 b_n) = 2 \cdot 2 + 3 \cdot 3 = 13
\]と,こんな感じでいいですか?
それでいいよ。他も同様だ。では,解答をすべてまとめておこう。
解答
- $\dlim{n \to \infty}(2 a_n + 3 b_n) = 2 \cdot 2 + 3 \cdot 3 = 13 \cdots (答)$
- $\dlim{n \to \infty}(3 a_n – b_n) = 3 \cdot 2 – 3 = 3 \cdots (答)$
- $\dlim{n \to \infty}a_n b_n = 2 \cdot 3 = 6 \cdots (答)$
- $\dlim{n \to \infty}\dfrac{a_n + 1}{b_n-2} = \dfrac{2 + 1}{3 – 2} = 3 \cdots (答)$
とても深いトコ
前に極限値の厳密な定義をやったので,$\dlim{n \to \infty} a_n = \alpha$, $\dlim{n \to \infty} b_n = \beta$ のとき $\dlim{n \to \infty}(a_n + b_n)=\alpha + \beta$ であることを証明してみよう。
証明
$ \{a_n\} $ と $\{b_n\}$ はそれぞれ $\alpha$,$\beta$ に収束するから,どんな正の数 $\varepsilon$ に対しても,\begin{align*}
n \geqq N_1 & \Rightarrow \zettaiti{a_n – \alpha} < \dfrac{\varepsilon}{2} \\
n \geqq N_2 & \Rightarrow \zettaiti{b_n – \beta} < \dfrac{\varepsilon}{2}
\end{align*}を満たすような自然数 $N_1$, $N_2$ が存在する。このとき,$N_1$ と $N_2$ の大きい方を $N$ とすると,$N$ より大きいすべての $n$ に対して \begin{align*}
\zettaiti{(a_n + b_n) – (\alpha + \beta)}
&< \zettaiti{a_n-\alpha} + \zettaiti{b_n-\beta}\\
&< \dfrac{\varepsilon}{2} + \dfrac{\varepsilon}{2} = \varepsilon
\end{align*}が成り立つから\[
\dlim{n \to \infty}(a_n + b_n) = \alpha + \beta
\](証明終)